この記事では、オプション取引におけるリスク指標の1つ「ガンマ」について解説します。
特に、ガンマ&デルタニュートラル戦略は、重要なリスクヘッジ戦略なのでぜひ参考にしてください!
オプションのガンマ講座
【オプション】ガンマとは?
オプションのガンマは、ギリシャ指標の1つでデルタの変化率を表します。
ガンマ
原資産価格が1円動いたときに、オプションのデルタがどれだけ変化するかを数値化した指標
※デルタは、原資産の価格の変化に対してオプション価格がどれだけ変化するかを表す指標です。
オプションのデルタを徹底解説!【ヘッジ戦略で活躍!】
ポイント
・デルタ:オプション価格の「速度」
・ガンマ:オプション価格の「加速度」
計算例1
原資産価格100円のあるオプションのデルタが0.4、ガンマが0.05のとき、原資産が1円上昇した場合、
デルタ = 0.4 + 0.05 × 1 = 0.45
計算例2
原資産価格98円のあるオプションのデルタが0.6、ガンマが0.08のとき、原資産が1.5円減少した場合、
デルタ = 0.6 - 0.08 × 1.5 = 0.48
ガンマはオプションの買いでは正の数を、オプションの売りでは負の数になります。
ガンマの符号
- ロング・コールとロング・プット:ガンマ>0
- ショート・コールとショート・プット:ガンマ<0
それぞれの特徴は、次の通りです。
正のガンマ
・原資産価格が上昇すると、デルタは上昇
・逆に、原資産価格が減少すると、デルタは0に向かって減少
・ガンマの範囲:0~1.0
負のガンマ
・原資産価格が上昇すると、デルタは減少
・逆に、原資産価格が減少すると、デルタは0に向かって上昇
・ガンマの範囲:-1.0~0
ガンマの計算式
ガンマは原資産価格に対するオプション価格の2次導関数であり、また原資産価格に対するデルタの1次導関数でもあります。
そのため、ガンマは次のように表されます。
ガンマの式
$$ガンマ = \frac{∂^2 C}{∂ S^2} = \frac{∂ C}{∂ δ}$$
∂:偏微分の記号 C:オプション価格 S:原資産価格 δ:デルタ
オプション価格はブラック‐ショールズ方程式より、次のように表されるので、
これをSについて偏微分すると、ガンマの計算式は次のように表されます。
配当利回りqあり
$$ガンマ=\frac{e^{-qt} \times e^{-\frac{(d1)^{2}}{2}}}{Sσ\sqrt{2\pi t}}$$
配当利回りqなし
$$ガンマ=\frac{e^{-\frac{(d1)^{2}}{2}}}{Sσ\sqrt{2\pi t}}$$
※プットオプションとコールオプションで、デルタの計算式は同じになります。
ガンマに影響を与える3つの要因
ガンマの数値に影響を与える要因は、主に次の3つです。
要因
- 権利行使価格と原資産価格の差
- 満期日までの残り日数(権利行使期限までの残り時間)
- インプライドボラティリティの大きさ
※金利や配当利回りもガンマの値に影響を与えますが、上の3つと比べると影響力は小さく無視してOKです
それぞれ具体的に見ていきましょう!
ガンマと原資産価格の関係
デルタと同じように、ガンマは原資産価格の変動で常に数値が変化します。
下のグラフは、コールオプションのデルタとガンマです。
理論上、ATMオプションでガンマは最大となり、権利行使価格が現在の原資産価格から離れるほどガンマは小さくなります。
このとき、ガンマの数値が高いATM周辺ではデルタの上昇率が高く、ITMやOTMではデルタの上昇率が低く曲線が平坦化しています。
また、権利行使価格が安いほど、ATMオプションのデルタは高く、デルタの曲線が急峻になります。
下のグラフは、権利行使価格80円・100円・120円の、3つのオプションの原資産価格に対するガンマの変化を表しています。
満期日までの残り日数とガンマの関係性
満期日が近づくと、ATMオプションのガンマは1に向かって増加し、ITMやOTMのガンマは減少する特徴があります。
下のグラフは、満期日までの残り日数がそれぞれ1か月・3か月・6か月の、各オプションのガンマを表します。(現在の原資産価格=100円)
SQ日までの残り日数が少ないオプションほど、ATM周辺のガンマは非常に高くなるため、ATM周辺ではデルタの数値は大きく変化しやすくなります。
逆に、深いITMやOTMオプションのガンマの数値は小さくなるため、デルタの変動も小さいです。
・短期オプション:ガンマはATMで非常に大きく、ITMやOTMでは小さい
・長期オプション:ガンマはATM・ITM・OTMで変化が少ない
インプライドボラテリティとガンマの関係
インプライドボラテリティが低いオプションほど、ITMのガンマは高く、深いITMやOTMではガンマは0に近い数値をとります。
下のグラフは、IVがそれぞれ20%・50%・70%の、各オプションのガンマを表します。
ポイント
低IVのオプション:権利行使価格と原資産価格の距離関係で、ガンマが大きく変化する
高IVのオプション:ガンマはすべての権利行使価格で安定した数値をとる
※IVが高いほど、ITM・OTMオプションの時間価値が比較的高く、これらのオプションがITMに近づいても時間価値がさらに大きくなることはないため、ガンマは全体的に低く安定します
また、下のグラフのように、IVが増加するとATMオプションのガンマは1に向かって増加し、逆にITMやOTMオプションのガンマは0に向かって減少します。
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高ガンマのオプションについて
ガンマは、オプション価格のボラテリティを表す指標でもあります。
ガンマの数値が高いほど、デルタ値に大きな変動を生み、その結果原資産価格が動くとオプション価格も大きく動きます。
高ガンマのオプション買い
好ましい方向に相場が動くと、オプション価格の動きが加速して、利益が指数関数的に増加する
高ガンマのオプション売り
価格の変動は大きいため、予測が間違っていた場合、損失が加速的に拡大するためリスクが高い
ガンマヘッジ戦略について
ガンマニュートラルヘッジは、オプション取引のポジションの合計ガンマ値が0または0に近くなるように調整するヘッジ戦略です。
このポジション構築により、原資産価格が動いても、ポジション全体のデルタ値はほぼ一定を保つことができます。
複数のオプションポジションを管理する場合に重宝します。
ガンマヘッジには、次の3つの役割があります。
役割
- ポジションの損益が原資産価格による影響を小さくして、損失の急拡大を防ぐ
- インプライドボラティリティから利益を得るポジションを構築する
- 満期日直前の、原資産の激しい価格変動からポジションを保護する
ガンマヘッジは通常単独で使用されず、デルタヘッジ戦略とあわせて利用されます。
ガンマ&デルタニュートラルヘッジ戦略とは⁉
デルタニュートラルヘッジ戦略は、短期間における原資産の価格変動からポジションを保護しますが、
デルタは絶えず変化するためデルタをニュートラルに保ち続けるのは困難です。
特に、満期日の前日~当日は、時間価値がほどんど失われて、原資産価格の影響力が高まってオプション価格が大きく動く可能性があり!
→デルタニュートラルヘッジだけでは、このリスクをヘッジするのは難しい
そのため、デルタに加えて、ガンマもニュートラルにする必要があります。
ガンマ&デルタニュートラルヘッジ戦略
ポジションの合計ガンマ・合計デルタを、0または0に近いように調整する
これにより、原資産価格が多少動いても合計デルタは0で一定となり、原資産が動いてもオプションの損益はほぼ変動しなくなります。
ガンマ&デルタニュートラルヘッジ戦略の手順
手順は、次の2つです。
step
1合計ガンマ≒0にするよう、オプションのポジションを構築
コール/プットオプションを買うと正のガンマが追加され、コール/プットオプションを売ると負のガンマが追加されます。
step
2合計デルタ≒0にするよう、原資産価格を買う(または売る)
原資産の買いはデルタ=1で、売りはデルタ=-1になります。
また、原資産のデルタは変化しないのでガンマ=0であるため、原資産のポジションを追加しても合計デルタは変化しません。
計算例
保有している複数のポジションのΣガンマ=0.6、Σデルタ=2.5のとき
1.ガンマ=-0.6(デルタ=-0.5)のコールオプションを売ります
→ Σガンマ = 0.6 - 0.6 = 0
このとき、ポジションの追加で、Σデルタ=2.5-0.5=2.0になります
2.デルタニュートラルにするために、原資産を2株売ります
→ Σデルタ = 2.0 + (-1) × 2 = 0
※合計ガンマやデルタは0に非常に近いなら、ニュートラルとみなしてOKです
例:Σデルタ=0.04≒0 (0.05以下≒0)
応用
ガンマ&デルタがニュートラルなポジションは、ギリシャ指標において0でないのはベガだけになります。
※ガンマ≒0のとき、セータもほぼ0になります
そのため、ガンマ&デルタニュートラルポジションは、原資産の動きや時間価値の減衰に影響を受けず、ボラティリティのみに絞ってオプション取引をすることが可能になります。
取引例
大きな利益が出ているポジションを保有して、ボラティリティが増加する可能性のある金融イベントを控えている場合は、
ガンマ&デルタニュートラルなポジションに調整しましょう。
これにより、現在の利益を確保しつつ、ボラテリティの増加で利益をさらにあげることができます。
オプションのガンマ・デルタの符号の組み合わせに注意!
複数のオプションを組み合わせると、様々なガンマ・デルタ数値をもつポジションが構築されます。
このガンマ・デルタの符号の関係性により、ポジション全体の性質が大きく異なるので要注意です。
1.ガンマ正 × デルタ正
合計ガンマ・合計デルタがともに正である場合、原資産価格が上昇すると、オプション全体の価値も上昇します。
2.ガンマ正 × デルタ負
原資産価格が上昇すると、オプション全体の価値は減少しますが、正のガンマによりデルタは0に向かうため、価値の減少速度は緩やかになります。
3.ガンマ負 × デルタ正
原資産価格が上昇すると、正のデルタによりオプション全体の価値も上昇します。
しかし、原資産がさらに上昇すると、負のガンマのためデルタは減少していき、やがて負に転換します。
その結果、原資産が上昇しても、オプションの価値は減少し始めるようになります。
4.ガンマ負 × デルタ負
原資産価格が上昇すると、加速度的にオプション全体の価値が低下します。