この記事では、オプション取引における「スマイルカーブ」について解説します。
これは、オプション銘柄のインプライドボラテリティ(IV)の分布をグラフ化したもので、IVの状態や推移を観察するのに役立つツールとしてオプショントレーダーに利用されています。
目次
スマイルカーブとは?【IVの分布図】
スマイルカーブとは、同じ有効期限をもつ一連のオプションの行使価格に対する、インプライドボラテリティの分布図(=ボラテリティカーブ)の一種です。
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横軸が行使価格、縦軸がインプライドボラテリティでグラフを作成すると、スマイルカーブは下図のように、ATMを中心に弧(U字型)を描きます。
※笑っている口元のような形から、「スマイル」カーブと呼ばれます
このグラフはオプションの需給関係を表します。
スマイルカーブでは、インプライドボラテリティ(IV)が次のような特徴をもちます。
- ATMでは、IVが最小値になる
- 権利行使価格がATMから左右に離れると、IVが指数関数的に増加する
ATMの右側はITMプットまたはOTMコールで、ATMの左側はITMコールまたはOTMプットになります。
いずれもATMのオプションに比べ、インプライドボラテリティは大きいです。
スマイルカーブでわかること&使い方
スマイルカーブが示すことは、ATMオプションよりもITMやOTMオプションのほうが需要が大きい傾向があるということです。
このような高い需要は、インプライドボラティリティの増加により、オプションの時間価値が高まりやすいです。
また、オプション価格が原資産価格から大きく離れるほど、価格の変動率が大きくなる可能性があります。
スマイルカーブでボラティリティの高まりを期待できるならば、ボラの上昇を利用した「ロングストラドル」や「カバードコール」がおすすめです!
ボラテリティカーブの使い方
ボラテリティカーブをリアルタイムで見ることで、多くの銘柄のインプライドボラテリティの状態や相対的な大きさを一括監視することができます。
そして、スマイルカーブの形を参考にすることで、数あるオプション銘柄の中から自分の戦略に適した銘柄を見つけるのに役立ちます。
※スマイルカーブは、短期オプションにおいて頻出度が高いボラテリティパターンになります。
ボラティリティスキューでIVの分布を把握!
ボラテリティカーブは、需給や満期までの残り日数などの要因により、常にきれいなU字型のスマイルカーブを形成するとは限りません。
スマイルカーブが左肩(右肩)上がりに歪んでいるパターンも見られます。
この歪んだスマイルカーブは、一般的に「ボラテリティスキュー」と呼ばれます。
ボラティリティスキューが生じる理由
スマイルカーブが歪曲する原因として、オプション価格の需給の偏りが挙げられます。
需給バランスが偏る要因
- コール売りやプット買いの需要が高い
→保有株の値下がりリスクを限定したいヘッジ取引が常にある - 株式相場では、上昇スピードはゆっくりなのに対して、下落スピードは急である
→株価の急落は投資家の恐怖心を煽り、利益確定や損切の売りが殺到して、需給関係が一気に崩れます
2種類のボラテリティスキュー
ボラテリティスキューは、左肩上がりと右肩上がりの2パターンがあります。
それぞれ順にみていきましょう。
1.左肩上がりのスキュー
このパターンでは、権利行使価格が低いオプションのIVが、権利行使価格が高いオプションのIVより大きい傾向があります。
ITMコール・OTMプットのIV > ITMプット・OTMコールのIV
また、ATMより右側でインプライドボラテリティは最安値となり、さらに右に行くほどIVは緩やかに上昇します。
このパターンは、日経225オプションでよくみられるパターンです。
左肩上がりのボラテリティスキューの背景
株価が急落すると、投資家達はパニックに陥り、市場が荒れボラテリティが増加しやすいです。
逆に、株価が上昇している場合は、市場が安定しボラテリティが低下する傾向があります。
そのため、右側のカーブより左側のカーブのほうが急角度で上昇します。
株式相場の不確実性が高まり、市場参加者の多くが暴落を不安視してリスクヘッジのためのプットオプションの買いの需要が高まるほど、左側のカーブの角度が急になります。
2.右肩上がりのスキュー
このパターンでは、権利行使価格が高いオプションのIVが、権利行使価格が低いオプションのIVより大きい傾向があります。
ITMプット・OTMコールのIV > ITMコール・OTMプットのIV
つまり、ITMプット・OTMコールのオプション需要が、ITMコール・OTMプットより高いことを示しています。
日経225オプションのスマイルカーブが見れるツール
日経225オプションのスマイルカーブを見たい方は、カブコム証券の「スマイルカーブフラッシュ」がおすすめ!
口座を開設するだけで無料で利用できるので、興味がある方はお試しください。
絶対的スマイルカーブでIVの変化を調べよう!
同じ銘柄(=同じ権利行使価格)のIVを比較したい場合は、横軸を行使価格で固定したスマイルカーブを1つのグラフに重ねます。
同じ行使価格のオプションのIVがどれだけ変化したかわかります。
上の図では、日経225オプションのスマイルカーブに3日後のスマイルカーブを追加表示しています。
日経平均株価が3日間で19000円から19500円に上昇することで、スマイルカーブの中心(ATM)も500円右にシフトしています。
例1
同じ形状のままカーブ全体が浮上しており、ボラテリティが全体的に上昇しています。
例2
左側のカーブが急上昇してIVが急増しており、下値不安が高まっています。
例3
日経平均株価が下落し、OTMプットがATMに近づくことでIVが低下しています。
相対的スマイルカーブで各銘柄のIV分布を比較!
絶対的スマイルカーブでは、原資産(日経平均株価など)が動くとスマイルカーブの中心がずれてしまいます。
ATMを基準にした相対的スマイルカーブを表示したい場合は、横軸を相対権利行使価格にします。
相対行使価格の例
- ATMからの値幅
- ATMに対する比率
下のグラフは、横軸を「ATMからの値幅」に変換したスマイルカーブです。
他にも、対数変換や年換算などがあります。それぞれの特徴は、次の通りです。
種類 特徴 権利行使価格 原資産価格が動くと、ATMの中心がずれて比較が難しい ATMとの絶対距離 スマイルカーブをATMを中止に横に平行移動する ATMとの比率 短期間であれば比較可能。満期が近づくと、次第にOTM側が跳ね上がる ATMとの比率を対数変換 横軸が何を意味するか直感的にわかりにくい ATMとの比率を対数変換&年換算 自然対数を使うと、連続複利による1年後の上昇率/変化率を反映した数字になる
残存日数の異なるカーブを比較できる引用:國宗 利広「日経平均オプション入門」中央経済社(2017)