この記事では、オプション戦略の「バーティカルスプレッド」について、次の3つの項目を解説します。
バーティカルスプレッドとは?【種類&損益図】
バーティカルスプレッドは、原資産市場が緩やかな上昇トレンド・下降トレンドの形勢時に有効なオプション戦略です。
原資産市場が強気 or 弱気であるか、またスプレッドの種類がクレジット or デビットのどちらかにするかで、4種類のバーティカルスプレッドに分かれます。
バーティカルスプレッドの組み合わせと損益図
バーティカルスプレッドは、満期日とタイプ(プットorコール)が同じで権利行使価格が異なる、2つの買い・売りオプションで構成されます。
※ストライク価格が同じで満期日が異なる、2つのオプションの売買で構築する、カレンダースプレッドと真逆のオプション戦略になります。
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上で述べたように、バーティカルスプレッドには次の4種類があります。
・ブル・コールスプレッド
・ブル・プットスプレッド
・ベア・コールスプレッド
・ベア・プットスプレッド
ブル・コール(プット)スプレッドは、原資産価格の上昇で利益を上げる戦略で、ベア・コール(プット)スプレッドは、原資産価格の減少で利益を上げる戦略です。
また、ブル・コールスプレッドとベア・プットスプレッドは、デビットスプレッドの一種であり、ブル・プットスプレッドとベア・コールスプレッドは、クレジットスプレッドの一種になります。
それぞれの組み合わせと損益図について、簡単に紹介します。
1.ブル・コールスプレッド
組み合わせ
- 権利行使価格Aで、コールを買う
- 権利行使価格Bで、コールを売る
※基本的に、原資産価格は、A~Bの間になるよう調整します
利益/損失の式
原資産価格≦A:最大損失 = 支払った正味プレミアム
A<原資産価格<B:利益 = 原資産価格 ー 権利行使価格A - 支払った正味プレミアム
原資産価格≧B:最大利益 = 権利行使価格B - 権利行使価格A - 支払った正味プレミアム
損益分岐点=損益分岐点 = 権利行使価格A + 支払った正味プレミアム
※支払った正味プレミアム = ブル・コールスプレッド構築時のオプションAの価格 ー オプションBの価格
2.ブル・プットスプレッド
組み合わせ
- 権利行使価格Aで、プットを買う
- 権利行使価格Bで、プットを売る
利益/損失の式
原資産価格≦A:最大損失 = 権利行使価格B - 権利行使価格A ー 受け取った正味プレミアム
A<原資産価格<B:利益 = 受け取った正味プレミアム ー 権利行使価格B + 原資産価格
原資産価格≧B:最大利益 = 受け取った正味プレミアム
損益分岐点=権利行使価格B ー 受け取った正味プレミアム
※受け取った正味プレミアム = ブル・プットスプレッド構築時のオプションBの価格 ー オプションAの価格
3.ベア・コールスプレッド
組み合わせ
- ストライク価格Aで、コールを売る
- ストライク価格Bで、コールを買う
利益/損失の式
原資産価格≦A:最大利益 = 受け取った正味プレミアム
A<原資産価格<B:利益 = 受け取った正味プレミアム + 権利行使価格Aー原資産価格
原資産価格≧B:最大損失 = 受け取った正味プレミアム ー 権利行使価格B + 権利行使価格A
損益分岐点=権利行使価格A + 支払った正味プレミアム
4.ベア・プットスプレッド
組み合わせ
- 権利行使価格Aで、プットを売る
- 権利行使価格Bで、プットを買う
利益/損失の式
原資産価格≦A:最大利益 = 権利行使価格B - 権利行使価格A ー 支払った正味プレミアム
A<原資産価格<B:原資産価格 ー 権利行使価格A ー 支払った正味プレミアム
原資産価格≧B:最大損失 = 支払った正味プレミアム
損益分岐点 = 権利行使価格B ー 支払った正味プレミアム
バーティカルスプレッドのメリット&デメリット
バーティカルスプレッドのメリットは、次の3つです。
メリット
- 最大損失を限定することができる。また、最大損失を事前に自由に調整できる
- 買いオプションの支払うプレミアムを、売りポジションによる受け取るプレミアムで一部相殺して、取引コストを下げることができる
- 買いと売りの2つのポジションを組み合わせることで、インプライドボラティリティやタイムディケイが、オプション価値に与える影響を軽減できる
デメリットは、次の3つです。
デメリット
- 2つのオプションでバーティカルスプレッドを構築するため、取引手数料が単体の取引より大きくなる
- 最大利益に上限がある
- 単体のオプションと比べ、利益となる価格範囲が狭く、勝率がやや低下する
たとえば、最大損失が同じブル・コールスプレッドとコールオプション買いの損益図を比較してみると、下の図のようにブル・コールスプレッドのほうが損益分岐点が右側にあります。
バーティカルスプレッドで勝つために知っておくべき5つのポイント
ポイント1
バーティカルスプレッドの最大利益や最大損失は、2つのオプションの価格や権利行使価格で事前に決定することができます。
たとえば、ブル・コールスプレッドでは、権利行使価格A~B間の幅を大きくすることで最大利益を大きくすることができます。
ただし、このとき最大損失も大きくなり、リスクリワードレシオが悪化します。
そのため、リスクリワードレシオが1:2以上となるように、オプションをうまく選択する必要があります。
ポイント2
バーティカルスプレッドは最大利益に上限があるため、原資産市場が緩やかな上昇トレンド・下降トレンドでうまく機能する戦略になります。
大きな価格の上昇(下降)が期待できる原資産市場でのバーティカルスプレッドは、利益を伸ばすことができないのでおすすめできません。
この場合は、コール(プット)オプションの単独買いが適しています。
- トレンドの後期で、価格の伸びしろが少ない:バーティカルスプレッド
- ブレイクアウトやトレンドの発生直後で、価格の大きな伸びが期待できる:コール(プット)オプションの単独買い
ポイント3
バーティカルスプレッドは、売りポジションの権利行使価格の位置が最も重要です。
売りポジションの権利行使価格 = 最大利益が発生する分岐点
たとえば、ブル・スプレッドの場合、満期日に原資産価格が売りポジションの権利行使価格Bより上で終える確率を上げるために、次のようなポイントに置くといいですよ。
- トレンド方向にある強力なレジスタンスラインより下に置く
レジスタンスライン上に置くと、レジスタンスラインが価格の上昇を妨害するため、権利行使価格Bまで原資産価格が上昇する可能性が低くなるので要注意です!
また、権利行使価格Aは強力なサポートライン下に隠すのがベストです。サポートラインによる買い圧力で、価格の下値が重くなり、上昇に転じやすくなります。
他にも、RSIやストキャスティクスなどのオシレーターで、トレンド方向に相場が動く余地が残っているか確かめましょう。
たとえば、RSIが70%以上では、買われすぎ状態で上値が重いため、ブルスプレッドには適していません。
RSIが30%以下で売られすぎ状態にある場合、大きく上昇する可能性があるため、ブルスプレッドに適した環境になります。
ポイント4
オプションの買いポジションでは、時間価値の減衰(タイムディケイ)により、オプション価値が低下します。
解決策の1つとして、同時に売りポジションを建ててバーティカルスプレッドを構築しましょう。
満期日の同じ買い売りのオプションは、セータの絶対値がほぼ同じなため、正味セータが0に近い数値となり、オプション全体の価値がタイムディケイから影響を受けにくくなります。
ただし、原資産価格と権利行使価格A・Bの距離で、正味セータはわずかですがプラスまたはマイナスの数値になります。
ブル・スプレッドの場合
・原資産価格が価格A・Bの中間にある:正味セータ-≒0
・原資産価格が価格A(買いポジの権利行使)に近いとき:正味セータ<0
→時間価値の減衰で損失が出る
・原資産価格が価格B(売りポジの権利行使)に近いとき:正味セータ>0
→時間価値の減衰で利益が出る
このように、ブルスプレッドでは、原資産が上昇すると、タイムディケイによる恩恵を受けることができます。
※ベア・スプレッドの場合は、正味セータの符号が反対になります
ポイント5
バーティカルスプレッドの収益は、インプライドボラティリティ(IV)の大きさに少し影響を受けます。
そのため、原資産のIVが低水準にあり、上昇の見込みが高い場合は、ブル・コール(プット)スプレッドがおすすめです。
IVの上昇 → オプション価格の上昇 → ブル・スプレッドの利益増加
また、原資産のIVが高水準にあり、減少の見込みが高い場合は、ベア・コール(プット)スプレッドがおすすめです。
IVの減少 → オプション価格の下落 → ベア・スプレッドの利益増加
※IVが高水準・低水準にある原資産を探す指標として、IVランクがおすすめです。
- IVランク≧80%:IVは高水準にあるため、ベア・スプレッドで取引する
- IVランク≦20%:IVが低水準にあるため、ブル・スプレッドで取引する