この記事では、オプション戦略の1つ「カレンダースプレッド」について解説します。
カレンダースプレッドは、IVと時間価値の減衰から利益を得ることができる戦略で、原資産市場が狭い範囲でレンジを継続する可能性が高いときに活躍します。
【オプション戦略】カレンダースプレッドとは?
カレンダースプレッドは、オプションの取引戦略の1つで、次の2つのポジションで構築します。
- 満期日が短い、短期オプションの売り
- 満期日が長い、長期オプションの買い
ポイントは、次の4つです。
オプション構築例:現在1月10日、原資産価格=1200円のとき
・2月限の、権利行使価格1200円のコールオプションを10枚売る(オプション価格=115円)
・3月限の、権利行使価格1200円のコールオプションを10枚買う(オプション価格=140円)
※コールオプションを使用しているので、これは「コールカレンダースプレッド」といいます
オプション価格は、期近(2月限)のほうが安いため、オプション構築時に次のコストが発生します。
取引コスト = 長期オプション価格 × 枚数 - 短期オプション価格 × 枚数 = 140 × 10 - 115 × 10 = 250円
※Weeklyオプションを使って、カレンダースプレッドを構築することもできます
・Weeklyオプションの売り
・マンスリーオプションの買い
カレンダースプレッドの権利行使価格について
原資産価格が短期オプションの満期日まで、現在の価格を中心にレンジ相場を形成すると予測される場合は、ATMでポジションを作成します。
もし、原資産価格が上下に動く可能性がある場合は、権利行使価格を原資産価格の上下に調整します。
原資産相場がやや上昇傾向にある場合
現在の原資産価格より高い権利行使価格でコールオプションを建てる
原資産相場がやや下降傾向にある場合
現在の原資産価格より低い権利行使価格でプットオプションを建てる
プット・コールどちらを使う?
カレンダースプレッドでは、プット・コールそれぞれのオプションでポジションを構築できますが、
どちらを使用するかは、上で述べたように、原資産価格の方向性によります。
- 株価が強気傾向:コールカレンダースプレッドを使用する
- 株価が弱気傾向:プットカレンダースプレッドを使用する
理由
オプション取引では、一般的にOTMオプションのほうがITMオプションより流動性が高い傾向があります。
そのため、たとえば、原資産相場がやや上昇傾向にある場合に、現在の原資産価格より高い権利行使価格でコールカレンダースプレッドを構築すると、
流動性の低い長期コールオプションがOTMになり、流動性を確保できます。
カレンダースプレッドの4つの長所
4つの長所
- 最大損失はポジション構築時のコスト+手数料であり、損失が限定される
- インプライドボラティリティや時間価値の減衰(タイム・ディケイ)から利益を上げることができる
- 短期オプションの売り建てにより、長期オプションの取引コストを下げることができる
- カレンダースプレッド戦略を維持するためのポジション調整が比較的簡単
詳しくは、下記の項目で解説します。
カレンダースプレッドの仕組み【損益図&戦略】
カレンダースプレッドは、インプライドボラティリティの増加やタイムディケイから利益を得る戦略です。
2つのオプションの権利行使価格は同じであるため、原資産価格が上下に動いても、一方の利益が他方の損失で相殺するため、本質的価値は変化しません
カレンダースプレッド戦略が有効な相場環境
- 原資産市場が方向感のないレンジ相場で、「短期オプションの満期時に原資産価格が権利行使価格近くでとどまっている」と予測できるとき
金融政策・決算発表・重要経済指標など、株価が大きく動くイベントが控えている場合はカレンダースプレッド戦略は危険です。
※原資産市場のボラティリティの現在の状態、および直近のボラの変動を把握するのに「ヒストリカルボラティリティ」指標がおすすめです。
詳しくは→ ヒストリカルボラティリティとは?【使い方&見方】
※また、日経平均株価では、7月・8月・10月・12月後半で値動きが小さい傾向があり、日経225オプションでのカレンダースプレッドが有効です。
インプライドボラティリティ
長期オプションは短期オプションより大きなベガをもつため、オプション価格はインプライドボラティリティに敏感に反応します。
そのため、インプライドボラティリティの増加で、長期オプションのほうが価格がより大きく変動するため、
長期の買いオプションによる利益が短期の売りオプションによる損失を上回り、ポジション全体で利益が出ます。
また、ベガはオプションの状態がATMで最大となるため、権利行使価格は原資産価格に近い価格で設定する必要があります。
計算例:短期オプションのベガ=1.9、長期オプションのベガ=3.4のとき
IVが2.0%増加すると、各オプション価格の上昇幅は、
短期オプション:1.9×2.0=3.8円
長期オプション:3.4×2.0=6.8円
そのため、短期の売りオプションでは「3.8×枚数」の損失が発生し、長期の買いオプションでは「6.8×枚数」の利益が発生します。
カレンダースプレッドの利益 = (6.8 - 3.8) × 枚数 = 3.0 × 枚数
カレンダースプレッド戦略は、現在のインプライドボラティリティが低く、今後1か月で大きく上昇する見込みが高いオプションで最適です。
※IVが低いオプションでは、オプションをより安い価格で買えるため、取引コストも節約できます
例
・現在のIVが過去3~6か月における低水準で推移している
・現在のIVがMA(20)の下側で大きく乖離している
時間価値の減衰
短期オプションは長期オプションよりセータが大きいため、時間価値の減衰は短期オプションのほうが大きいです。
計算例:短期オプションのセータ=4.2、長期オプションのベガ=1.5のとき
1日経過すると、各オプション価格の変動幅は、
短期オプション:4.2×1=4.2円減少
長期オプション:1.5×1=1.5円減少
そのため、短期売りオプションの「タイムディケイ」による利益は、長期買いオプションの「タイムディケイ」による損失を上回ります。
また、セータはベガと同様に、ATMで最大となり、原資産価格が権利行使価格から離れるほどタイムディケイによる利益が小さくなります。
カレンダースプレッドの損益図
上のグラフは、短期オプションの満期日でのカレンダースプレッドの損益図です。
最大利益
短期オプションの満期日に「原資産価格=権利行使価格」のとき、利益が最大になります
最大損失
原資産価格が大きく動いて、権利行使価格から大きく上下に離れたとき、損失が最大になります
→ 最大損失=ポジション構築時のコスト+手数料
※権利行使価格が同じプットカレンダースプレッドとコールカレンダースプレッドでは、損益図は同じです
ちなみに、カレンダースプレッドの損益図はインプライドボラティリティの大きさで形が変化します。
上の図は、構築時・15日後・満期日それぞれでの損益図です。
インプライドボラティリティが増加するほど、損益グラフは上に移動し、損益分岐点が左右に広がります。
カレンダースプレッドのロールオーバー
短期オプションの満期日が近づいており、カレンダースプレッド戦略を延長したい場合は、ロールオーバーします。
短期オプションを買い戻し、同じ権利行使価格で先の期日の売りオプションを建てる
1つ注意点として、新規売りオプションの満期日は、長期オプションの満期日より短くする必要があります。
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ダブル・カレンダースプレッド
ダブル・カレンダースプレッドは、2つのカレンダースプレッドを組み合わせた戦略です。
ポイント
- 権利行使価格の異なる、コールカレンダースプレッドとプットカレンダースプレッドを使う
- コールカレンダースプレッドの権利行使価格<原資産価格<プットカレンダースプレッドの権利行使価格
- 短期オプション・長期オプションそれぞれの満期日は同じ
- インプライドボラティリティの増加やタイムディケイから利益を得る
※デメリットとして、合計4つのポジションを同時に建てるため、取引手数料が大きくなります
上の図は、ダブル・カレンダースプレッドの損益図です。
特徴として、損益分岐点がシングル・カレンダースプレッドより広く、利益を上げる価格範囲が広いです。
また、利益が最大となるピークが2つあります。ATM周辺のベガは権利行使価格が大きくなるほど数値が高くなるため、右のピークのほうが高くなります。
実践的な利用方法として、次の2つがあります。
使い方1
原資産価格が、ある2つの価格水準間でレンジ相場を形成する可能性が高い場合、この2つの価格を権利行使価格とするダブル・カレンダースプレッドを構築する
使い方2
シングル・カレンダースプレッドの権利行使価格が原資産価格から乖離し始め、損失が出始めた場合、カレンダースプレッドを原資産価格が動いた方向に新規追加する
たとえば、原資産価格が大きく上昇して、シングル・カレンダースプレッドの損益分岐点を超えた場合、その原資産価格の右側にカレンダースプレッドを構築します。
これにより、原資産価格がさらに上昇しても、ダブル・カレンダースプレッドで利益を上げることができます。
リバース・カレンダースプレッド
リバース・カレンダースプレッドは、カレンダースプレッドの買い売りを逆にした戦略で、次の2つのポジションで構成されます。
・満期日が短い、短期オプションの買い
・満期日が長い、長期オプションの売り
この戦略は、インプライドボラティリティの低下から利益を上げることができます。
カレンダースプレッドとは反対に、「原資産価格=権利行使価格」のとき損失が最大で、原資産価格が大きく動いて権利行使価格から離れるほど大きな利益になります。
そのため、金融政策や決算発表など、株価が大きく動くイベントが1か月以内に控えているときに、有効な戦略になります。